睡眠についての研究はずいぶん進んできましたが、それでも、まだ、眠りの構造とねむけの関係など、わからないことは数多く残っています。たとえば、ぐっすり眠るとは深い睡眠をとることである、というイメージがあります。確かに、ロングスリーパーなどでは、浅い眠り(レム睡眠)の時間が長い、つまり深い睡眠が少ないために長時間の睡眠が必要になっているとも考えられますが、睡眠時無呼吸症候群の患者さんがCPAPを使った場合、浅い眠りが長いにもかかわらず「ぐっすり眠れた」という感想を聞くことが多いのです。精神生理性不眠の患者さんなどでは、実際はかなり眠っていても「眠れない」と感じることも少なくないように、眠れたか、眠れなかったかは、多分に主観的な要素が大きいようです。睡眠は、瞬間的に深く眠ればよいのではなく、一定時間、継続して眠れてこそ効果を発揮すると思われています。それゆえ、途中で目覚めたり、眠りが浅かった感覚が残っていると、寝足りないと感じることになるのでしょう。
一般的に、規則正しい起床と就床、食事と適度な運動、ゆったり入浴することといった生活習慣が、よい睡眠を誘うものであることはまちがいありません。なかでも、午後から夕方にかけての適度な運動は、確実に寝つきをよくしてくれます。反対に、夜間のアフェ
インは深い眠りを減少させて、夜間の覚醒回数を増やすといわれますし、喫煙も睡眠こマイナスの影響を及ぼします。飲酒も、適量を晩酌で楽しく、というのが快眠の秘訣でしょう。そのはか、快眠のためのコツを次ページに紹介してあるので、参考にしてください。
不眠症や睡眠障害の増加を感じる一方で、長年、睡眠障害に悩む患者さんの診察に当たってきた私の実感は[なんと人間はよく眠るものか]ということです。不慣れな病院の一室で、めんどうな実験装置をつけながら、みなさん、実によく眠ります。
眠ってしまえば意識はありませんから、「眠り」そのものを知っている人はいないはずですが、誰もが眠りは心地よいものと知っており、求めています。睡眠とは、かのレオナルドーダヅインチが言ったように「欲しい、欲しいと思うが、手に入ったときには気づかないもの」ということでしょうか。アメリカの睡眠学者は「手のひらにのせた小鳥である」と言いました。そっとしていると、そこにとどまっているが、つかもうとした瞬間、逃げ出すもの、それが睡眠だというわけです。
眠ろうと意識すると焦りが出て眠れなくなります。ですから、眠るための努力というものは存在しません。努力を始めた瞬間に、眠りは遠ざかっていくのです。
安眠のための生活習慣は守りつつ、眠れない夜こそ、その時間を天から授かった余暇として、静かに読みかけの本を読むくらいの余裕ある心境でいたいものです。