臨床現場からの知見

「精神生理性不眠」はカウンセリングが治療の基本

精神生理性不眠の場合、治療の基本はカウンセリングになります。いかに自分が眠れないか、そして、それがどれほど苦しいかを綿々と訴える患者さんが多いので、そのお話に耳を傾けることが治療のメインになることが少なくありません。

不安の強い患者さんには、緊張をやわらげる目的で、カウンセリングと並行して、睡眠導入剤を処方します。そのほかの患者さんには、自分の認識を変えることによって症状を改善する「認知行動療法」を行っていきます。具体的には、自分の睡眠状態を客観的に知っていただくために、睡眠中の脳波を記録します。


眠ろうとすることが眠りをじゃまする

誰にでも、たまには何かのはずみで眠れないことがあります。普通は、翌日の昼間は眠さをがまんして仕事や家事を行い、夜には、ふだん以上にぐっすり寝て、睡眠不足は解消されます。ところが、「昨夜は眠れなかった。今夜はしっかり寝なくてはいけない」など
と思い、昨夜の分まで睡眠時間をとろうと考えて、早めに布団に入ると、この時点で、すでに「眠る」ことを意識して、少々緊張感があり、ちょっと寝つきにくくなっています。

眠かったはずなのに、布団に入っても寝つけないでいると、さらに「寝よう、寝よう」と焦ってしまいます。焦れば、わずかながら血圧は~がり、筋肉も緊張して、体は「寝つく」とは逆の方向に生理的変化を起こし、そのために、ますます寝つきにくくなります。


睡眠・覚醒の深~い関係

レムーノンレム睡眠のほか、成長ホルモン、体温、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)、メラトニンなどにも、睡眠と深いかかわりがあると考えられているリズムがあります。

深いノンレム睡眠中に成長ホルモンの分泌がピークになることから、ノンレム睡眠は子どもの体の成長に役立つとも考えられています。大人の場合、ノンレム睡眠は疲労回復やタンパク質の変性を修復しているのではないかともいわれています。


浅い眠り=レム睡眠と深い眠り=ノンレム睡眠

ひと言で「眠り」といっても、われわれは均一に眠っているのではなく、2種類の睡眠状態の間を波状に行き来しています。

寝ついてから起きるまでの脳波を、ごく単純化してみると、最初はまず、ぐっと急激に眠りに入ります。まさに「眠りに落ちる」という表現がぴったりの入り方です。脳波上には振幅の人きな遅い波「徐波」が出てきます。これをノンレム睡眠といいます。断眠実験を行った直後に寝ると、ノンレム睡眠の長い睡眠になりますから、まず体はノンレム睡眠を必要としていることがわかります。また、深いノンレム睡眠中には、成長ホルモンが盛んに分泌されることや、免疫機能と関連があることなども明らかになっています。

ノンレム睡眠が90分ほど続くと、脳波は覚醒状態に近くなります。これがレム睡眠です。目は閉じたままですが、眼球が素早く動きます。夢の中で何かを見ているために目が動くようにも見える動きです。レム睡眠中は、交感神経は完全な休みになり、筋肉の緊張がゆるむため、体は力が抜けています。逆に、頭は覚醒に近づき、レム睡眠時には、脳のタンパク質合成は増加します。これは、レム睡眠中に、記憶の取捨選択や固定が行われるため、と考えられています。入眠後のレム睡眠出現時間はほんの数分ですが、起きる時刻に近くなると長くなります。 


「眠りとは何か」「人はなぜ眠るのか」

大脳を休ませるためにもたらされる「眠り」の複雑で緻密な仕組み

ここ十数年の問に、睡眠障害についての研究も進んで、睡眠専門のクリニックが注目を集めるようになってきました。とはいえ、「眠りとは何か」「人はなぜ眠るのか」といった本質的な問いをクリアする説明はまだ十分でない、というのが、長年睡眠障害の診療に携
わってきた私の、正直な印象です。

ただし、睡眠の研究者でなくても、「ぐっすり眠ったあとの気分のよさ」は、誰でも知っています。よく寝て、すっきり目覚めた朝は、気分も晴れやかで、気力もあふれ、家事も仕事もすいすい片づきます。

反対に、眠り足りておらず、目覚めがすっきりしないと、心身ともに重く、気だるく、作業能率も上がりません。

眠りは、食欲と同様、人の基本的欲求のひとつです。生きていくために必要不可欠で、完全に「自給的」なものです。いかなる先進の技術をもってしても、サプリメントや点滴などによって外部から補充することは不可能なのです。

人間以外の動物も眠りますが、人間のように無防備な状態で、7時間も8時間も続けて眠る動物はいません。そもそも、なぜ人は眠らなければならないのでしょうか。


健康被害だけでなく、大事故の原因にもなる「睡眠障害」

現代では人々の生活スタイルが夜型化し、とくに都市部では深夜も活動する人が珍しくなくなりました。テレビは当然のように24時間放送していますし、コンビニェンスストアを中心に24時間営業の小売店も増えました。私たちの睡眠時間は減少する傾向が続いています。

こうした社会変化と並行して、近年、不眠や睡眠障害に悩む人は増加傾向にあり、5人に1人は、睡眠の問題で悩んでいるといわれるほどです。

これは、個人的な悩みにとどまらず、さまざまな面に波及する社会問題でもあります。生活リズムかすれてしまい、起床時間に起きられないために不登校になっている子どもも少なくないといいます。また、睡眠障害や慢性的な睡眠不足によって生じる昼間のねむけ
は、大型トレーラー事故や遠距離バス事故など、悲惨な事故も引き起こしています。